請負工事の契約について
相談内容私は,小さな建設株式会社を経営しています。義理のある知り合いの紹介で,自宅を建設したいという
方の仕事を請負いました。その代金は2000万円です。
施主さんには年老いた母親がおり,当初は同居の予定がなかったものの,工事が始まるやその母親と
同居しなければならなくなったとして,建物内や玄関先などをバリヤーフリーにすることや,トイレや
風呂なども設計とは異なる仕様とすることを求められました。その結果,追加工事として300万円も
超過してしまいました。工期が迫っていたことや義理のある方の紹介であったことから,追加工事につ
いて,施主さんと具体的に対価や費用を決めることもなく工事を完成させました。
ところが,施主さんは「そんなに超過するなんて思わなかった,追加工事分の契約はしていないのだか
ら,150万円までしか支払わない」と言っています。
追加工事分の300万円全額の請求は出来ないのですか。
解答確かに,請負工事は,当事者間に工事の内容や金額等について具体的な合意があって初めて成立します。
争いを防ぐためにも,覚書や追加工事契約書を作っておくのが原則です。しかし,いちいち細かな追加
工事分についてまで,細々と契約書を作成せずに工事をすることも多いのではないかと思います。
そこで,商法は第512条で「商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは,相当
な報酬を請求することができる」としています。小さくとも株式会社は「商人」にあたります。
「営業の範囲内」の行為であることが必要ですが,建設会社にとって建物建設の追加工事は,通常は営
業の範囲内の行為です。あとは,300万円が「相当な報酬」と言えるかです。追加工事の為の実費や
適正な手間賃は認められるでしょう。
このように,金額の合意がなく契約が成立しているとはいえない場合でも,商人は相当な報酬を請求で
きます。おそらく商人は,「自分の身銭を使って依頼されてもいない仕事はしないはずだ」という前提
があるのでしょう。
※回答者
弁護士 柳澤修嗣(2019.5)