【債務が多い遺産の相続】 相続放棄したいが、住居が父名義で難しい。
相談内容少し前に亡くなった父が、カード会社や信販会社からの借入金が600万円もあることが判った。
その他に800万円位の借金があり、資産より負債のほうが多いが、自分たちが住んでいる住居は父名義なので相続放棄ができない。どうしたら良いか。
相続人は母と、長男である自分(大学生)と妹の3人である。
父親の債務が合計で1,400万円ということになるので、現在住んでいる住居の評価額がどれほどになるのか検討する必要がある。
仮に、債務額1,400万円以上の評価額であれば、単純承認をしたうえで、相続した債務について、債権者と交渉し分割払い等返済可能な支払い方法を模索することになる。
また、住居の評価額が相続した債務額より低い場合、相続開始から3ヶ月以内であって限定承認という方法をとれるのであれば限定承認を選択する。
既に期間が過ぎており限定承認の方法をとれない場合は、単純承認した場合と同様相続債権者と交渉することになる。
限定承認すると、相続人は、積極的な財産の限度内で相続債権者に弁済することになる。
しかし、相続債権者への弁済のため、積極的財産である住居を換価する必要があり、民法932条は、原則として競売によると定めている。
但し、「家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従い、相続財産の全部又は一部の価額を弁済してその競売を止めることができる」としているので、家庭裁判所に鑑定人を選任して貰い、その評価額を弁済して住居を確保できる余地はある。
債権者に対する返済は一括返済となるので、住居の評価額に相当するお金を用意する必要がある。
【相続放棄】
相続放棄は、プラスの財産もマイナスの財産も全く相続しないというもので、相続開始を知ってから3ヶ月以内に家裁に申立て、家裁が放棄の申述を受理する旨 の審判をすることによってその効力が生じ、その相続人は、初めから相続人でなかったものと看做される(相続放棄申述証明書の交付)。
しかし、相続人が単純承認した後に、遺産を取得しないことを俗に「相続分の放棄」というが、遺産分けで「何もいらない」と言って遺産を受取らないことは、 厳密な意味での放棄ではない。そのため、法的な手続きをして相続放棄した者はプラスの財産もマイナスの財産も継承しないのに対し、相続分の放棄をしたとし ても、借金などの相続債務を免れることはできないので注意が必要。
財務省統計によると、H19年分年間死亡者数に対する相続税課税対象者となった被相続人数の割合は4.2%で、過去4年間同率で推移しています。
基礎控除額(5,000万円+1,000万円×法定相続人の数)がありますので、一般の人にとって相続税はあまり縁のないもののように思われます。
しかし、亡くなった人に債務があった場合の相続については、思いがけない状況にもなり兼ねない難しい問題が発生します。手続きには期限がありますので、一日も早く、弁護士など専門家に相談することが大切です。
弁護士 田中善助